

2008年からの定員増、2014年の東北医科薬科大学の新設決定など、今、空前絶後の医学部ブームと言っても過言ではありません。
しかし、医学部を目指す学生や保護者の方々はブームだけで目標にすることを躊躇していただきたいと思います。言うまでもなく、医学部のほとんどの卒業生が、医師として社会参加をしていくことが宿命づけられているわけです。従って、入学試験の性質も単純に大学入試という意味合いにはならず、実質は就職試験になっているわけです。
6年間、医学部で学び、医師国家試験に合格し、2年間の研修期間を経て、やっと医師としてのスタート地点に立つことができるのです。社会的責任、人命尊重の精神など多くの社会人の中でも医師は最たる職業でしょう。それだけに経済的に恵まれることを期待する理由が多いのかもしれませんが、親などの勧めで医学部を目指すことはやめるべきだと思います。
なぜ、このような言い方をするのかといいますと医師という職業はそれほど休みも自由もなく、労働の対価を考えれば、割の良い仕事ではないからです。お金を儲けてよい暮らしを目指すなら、リスクはありますが起業して社長になった方が遥かにましということになります。
従って、医師を目標にするということは医師という職業がどのようなものなのか、医学部の学生になるということはどのようなことなのかをしっかりと把握し、更に自分に医師としての適性はあるのだろうかという問いをクリアしてから望むべきだと思います。
私も医学部への入学を希望する学生を指導し始めてから、25年ほどになるわけですが、正直、医師としてやっていけるのだろうかと思うような学生にも出会ってきたわけです。そのような適性が不足しているように感じる学生の特徴は細かく考えれば、いくつか挙げられますが、甚だしい学力不足タイプ、性格的に他人とのコミュニケーションが取れないタイプ、他人への配慮が乏しい自己中心的なタイプ、この3つのタイプはかなり医師としての適性が怪しいと感じます。この後、少し時間をいただいて順を追ってお話をさせて頂きながら適性が不足している場合の対策などもご紹介していきたいと思います。
学力不足タイプは、勉強していないというよりも、勉強そのものが好きではないタイプになるでしょうか。医師は一生勉強していかねばならない職業の一つですから勉強に対する適性がない場合、本人が覚醒して勉強に向かい時間をかけなければ、医学部への道は拓けません。可哀想なのは本人が勉強をとことんまで好きではなく、必要性も自覚していないのに保護者が熱心という場合です。得てして保護者は自分の時代の受験を投影しがちですが、自分と子供は異なるのだという考えを持つべきだと思います。保護者が高学歴である場合、自分の成功した手法を子供に押し付けようとするケースも多いのですが、そもそも生きている社会的事情も異なりますし、友人の環境なども異なります。勉強の必要性を痛感していない子供に難関の医学部入学を強いることは悲劇でしかありません。例え、入学できたとしてもどこかで留年するか退学してしまう。あるいは卒業はしても医師国家試験に合格できないことも決して珍しいことではないと思います。
但し、このタイプは性格が素直で、家庭も合格までに時間を要するということを理解しているケースでは、改善されることもあります。
このタイプは本人に根本的に学習習慣が身についておらず、高校3年間、あるいは中学、高校と6年間の勉強をサボってしまったというになりますので、合格の水準に達するためには時間がかかります。従って、通常で高校を卒業して1年という浪人生活では間に合わずに2年、3年と時間を費やすことになります。素直に時間をかけることで医学部の門を叩くということが可能になるケースも出てくるわけです。
ただ、ここで気をつけなくてはならないことですが、1年、2年と勉強をし続けていくと医学部受験以外に考えられないという思想にとらわれていくことも多いことです。本人も後もう少し、保護者も後もう少しと延び延びになっていくことは、好ましいとは言えません。
はっきり言えば、医学部へ入学した後には大量の暗記事項が待っていますし、本人の自覚の上で主体的な学習が求められます。正直、お膳立てされて処理をしていけばよいだけの勉強を予備校で長年しても結果が出てこないということは、医学部への適性が厳しいことを物語っています。
ですから、気持ちは理解できますが、冷静に考え、医学部を目指して合格をしていこうということであれば、ご家庭でよく話し合われて、高校卒業から3年以内で合格しない場合は、医学部以外の進路を考えるというように締めきりを明確にした方がよいと思います。
指導していて感じるのは、4年以上の浪人生活を送ってしまっている方に関しては、この締めきりを考えていないケースがほとんどであるということです。本人も何とかなると甘く考えており、保護者も子供の意見を尊重するというような発想から浪人生活を容認していると思いますが、世の中は何事につけタイムリミットがあります。それを自覚しないことには、どうにもなりません。
一定の時間を与えられて結果を出すことは、社会人、取り分け医師には不可欠な資質であると思います。そういう意味では、学力が不足しているのであれば、実際にどれくらいの時間がかかるのかを判断し、逆算して勉強をしていくことが重要であるといえます。その上で間に合わないということであれば、医学部以外の道もあると思います。
厳しいように感じられると思いますが、現実を考えると高校を卒業して受験勉強だけして過ごし4浪以上となると方向を転身するにも相当に大変であることは言うまでもありません。
医学部受験<専用>パスナビには、受験に対する学習に関するヒント、合格に向けた必要な情報がたくさんあります。皆様方が医学部受験<専用>パスナビをご覧になって、有効に利用され、多くの方が医学部への門をたたき、ミスマッチのない学生生活を過ごしていただければと期待しています。
次回は、コミュニケーションが取れないタイプの事例を取り上げていきたいと思います。
性格的にコミュニケーションが取れないタイプは学力的には問題がなくても、患者さんと会話を行うことや他の医療従事者との会話ができませんから、決定的に医師には向かないと思います。このような学生さんの場合、正直、同じ理系でも研究職などに向いているのであって、医師ではないと思います。問題は、成績が良いので偏差値的には医学部に届いてしまう可能性が高いということです。但し、性格的に不向きなのですから、安易に保護者や高校の先生などが医学部を進路として示すことは、本人を将来、追い詰めることになると思います。私が見てきた中でも、このタイプは留年や退学してしまうケースが圧倒的に多いと思います。
私が大学の職員の方から伺ったケースでは、用事があっても事務室で何も話さずに10分以上も立ち尽くしていることや、健康保険証を病院でどのように使うのかということすら知らなかったというものまであります。医学部の学生なのに何でというような内容です。挙句には、自分の子供が全く話をしない、常識がないというのに、保護者が事務室の職員にもっと親切に指導してほしいという通常ではありえないクレームをつけるケースまで聞いています。日常から他人の目を見て会話ができないという感じだと、通常の感覚では本当に医者になるのかと怪訝な気持ちがします。
コミュニケーションを取ることが、性格的におとなしいために苦手ということであれば、面接練習を行う、日常生活で積極的に挨拶をするなどということで解消される場合もあります。但し、この際、注意すべきは本人の元々の性格ですから簡単には治らないということです。受験学年になって、急に対策をしても厳しいと思います。医学部の場合は、多くの大学で面接試験も重視されるわけですから、日常から問題意識をもって生活することも重要です。医学部を目指すということは一般学部に進学するケースより、幅広い素養や社会性を求められるのですから、医学知識のようなものを詰め込む前に社会常識を持ってほしいと思います。それを、コミュニケーション能力のベースにしてもらうということが大切だと感じています。
最近増加傾向にあるのは、受験学年になって指定校推薦などで面接試験があるので至急対策してくださいという相談です。これまでの質問事項などを把握していますから、徹底的に対策を行いますが、大学側も予備校や高校で訓練をしてきていることを知っています。ですから、最近は面接時に用意できないような内容を急に聞いて対応力を見ることも多いように感じます。従って、理想を言えば小学生くらいからスポーツをさせるなど、コミュニケーションができる環境を保護者は用意する必要があると思います。さらに、社会的問題なども普段から自分の頭で考えさせる工夫が大切です。
また、日常生活で、あまり保護者が介入しないことも重要です。何でもかんでも保護者の方がしてしまう、三者面談などでも本人ではなく、保護者がずっとしゃべっているような家庭は危険です。そのような家庭で育つ子どもは、大人の顔色を伺い、自分の意見を持てないことが多いようです。親心として何から何までやってあげたいという気持ちはわかりますが、本人の自主性が育ちませんので、我慢が必要だと思います。
確かに医学部合格のためには学力が高くなければ難しいわけです。しかし、勉強ができることで医学部を選択するということが本当にプラスになるのかということは真剣に考えるべきだと思います。
医師への適性ということを考えれば、インフォームドコンセント、チーム医療が重視されている現代医療を取り巻く環境において、コミュニケーション能力の高さは大切な条件になります。パソコンの画面を見つめるだけで、患者さんを見ないお医者さんだったらどうでしょうか。そんなお医者さんには診療してほしくないのではないでしょうか。一方で、よく話をするが患者さんの意見は聞かないで、強圧的に平気で患者さんを傷つけるような発言をするお医者さんはどうでしょうか。やっぱり、診療してほしいとは思わないはずです。他者へきちんと配慮をして会話を成立させる能力は大変重要です。
ですから、周囲が躍起になって内向的過ぎる子供を医学部へ何が何でも入学をさせようとすることは、本人にとって、マイナスになる危険性があるということを認識していくべきだと思います。
今回は、国公立・私立の面接試験対策にも通じるお話をしていこうと思います。この記事を読んで、どちらかというと当てはまるなと感じる受験生は、自分の態度を修正することになるでしょうし、これから受験を迎える準備段階の学年に在籍する場合は、是非、注意してほしいと思います。
それでは、自己中心的に考えることが如何に医師への適性に欠けているのかということをお話ししていこうと思います。
日本の状況を鑑みれば、ほとんどの家庭で子どもの数が一人、あるいは二人というケースだと思います。さらに、晩婚化が進んでいることも少子化に拍車をかけています。一概には言えませんが、親が子どもに対して甘いケースも多く、物心両面で与え過ぎる傾向が強いと思います。従って、我慢ができない、他人への配慮ができないという子どもが多く、昭和の日本人の精神とは程遠い感覚であると言えます。
特に親が医師である場合、一般的に結婚が遅いと思います。必然的に遅く生まれた子どもは大変、可愛い。過剰なくらいに愛情を注ぐケースも珍しくありません。その結果、子どもが自己中心的な物事のとらえ方をする医学部受験生になっているケースもそう珍しくないのです。
医師にとって患者さんへの思いやりや献身的な気持ちはとても大切です。他人への配慮が乏しい自己中心的なタイプは、こういった素養が不足していることになります。またこのタイプは効率性を求めて自己に有利な環境を好みますから、周囲にとっては迷惑なタイプです。さらに困ったことに保護者も自分の子どものことを冷静に分析しておらず、修正を促すどころかプロテクトしてしまうこともありますので、手が付けられません。結局、入学後に痛い目にあってから気づくことになるのでしょうが、結果的に留年、退学してしまうこともありえると思います。
さて、ここからが本題ですが、本来身についている性格は、そう簡単には変えられないということです。従って、自分がわがままだなと感じているならば、面接試験では細心の注意が必要です。私も長年指導してきて、面接試験でそんなことを言ってしまったのかと驚愕することがあります。
例えば浪人生活が長い場合、教授の先生方からすれば、どうしてそんなにも長く浪人生活をしているのかを素直に知りたいわけです。もしかしたら、面接試験を受けている目の前の受験生は、何らかの問題を抱えているタイプなのかもしれません。質問事項は当然のことですし、普通に応えればよいところです。しかし、自己中心的だなと思うタイプの学生は、長年の浪人生活を馬鹿にされた、あるいは自分への攻撃と受け止めるのですね。質問している先生方に対して、浪人が長くて何が悪いんだと反撃し、自分は努力してきたんだと反論するわけです。謙虚に受け止めることができずに、口答えしてしまうのです。当然、面接の評価は低くなり合格はもらえません。
非常にもったいないのですが、学力があっても自分勝手なタイプは面接試験で態度などに出てしまいます。協調性のない自己中心的なタイプを合格させて、面倒を見ることになるのは先生方です。先生方がこの受験生の面倒を見たい、将来医師になってほしいと思えなければ、面接試験のある国公立・私立の医学部入試では厳しいと思います。
ですから、周囲への発言、行動に日常から気をつけておくことは大変重要です。自分の機嫌が悪いから挨拶をしない、気に入らないことはしない、礼節を守れないということでは、将来患者さんに嫌な思いをさせる医師にしかなれません。患者さんのQOLを重視する、チーム医療を実践するといった現代医療に身を投じるわけですから、しっかりと意識しなくてはなりません。
保護者の方は子どもを大切にし過ぎるということからは離れて、きちんとした情操教育、道徳教育を家庭の中で行ってほしいと思います。正直、それは予備校や学校に求めるものではないと思います。家庭教育は大変重要です。加えて他人に自分の子どもが叱られたり、注意されたりしたら、客観的に悪い部分があるのですから、修正を家庭で行うような意識を持つべきだと考えています。「うちの子のどこが悪いんですか。」「うちの子はやってません。」という反撃をしてくる保護者の方も見受けられますが、“モンスター”というよりは、一家そろって非常識以外の何ものでもありません。医師である前に常識人であるべきということは言うまでもありません。
「至誠にして動かざる者は いまだこれあらざるなり。」とは孟子の言葉ですが、医師になるのであれば、親にも子どもにも、常に心にとどめておいていただきたい言葉であると思います。