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「本当に医学部でいいのか」を、いま一度考える ‐後編‐

患者さんとの会話が苦手な「コミュニケーションが取れないタイプ」

性格的にコミュニケーションが取れないタイプは学力的には問題がなくても、患者さんと会話を行うことや他の医療従事者との会話ができませんから、決定的に医師には向かないと思います。このような学生さんの場合、正直、同じ理系でも研究職などに向いているのであって、医師ではないと思います。

問題は、成績が良いので偏差値的には医学部に届いてしまう可能性が高いということです。但し、性格的に不向きなのですから、安易に保護者や高校の先生などが医学部を進路として示すことは、本人を将来、追い詰めることになると思います。私が見てきた中でも、このタイプは留年や退学してしまうケースが圧倒的に多いと思います。

私が大学の職員の方から伺ったケースでは、用事があっても事務室で何も話さずに10分以上も立ち尽くしていることや、健康保険証を病院でどのように使うのかということすら知らなかったというものまであります。医学部の学生なのに何でというような内容です。挙句には、自分の子供が全く話をしない、常識がないというのに、保護者が事務室の職員にもっと親切に指導してほしいという通常ではありえないクレームをつけるケースまで聞いています。日常から他人の目を見て会話ができないという感じだと、通常の感覚では本当に医者になるのかと怪訝な気持ちがします。

コミュニケーションを取ることが、性格的におとなしいために苦手ということであれば、面接練習を行う、日常生活で積極的に挨拶をするなどということで解消される場合もあります。但し、この際、注意すべきは本人の元々の性格ですから簡単には治らないということです。受験学年になって、急に対策をしても厳しいと思います。医学部の場合は、多くの大学で面接試験も重視されるわけですから、日常から問題意識をもって生活することも重要です。医学部を目指すということは一般学部に進学するケースより、幅広い素養や社会性を求められるのですから、医学知識のようなものを詰め込む前に社会常識を持ってほしいと思います。それを、コミュニケーション能力のベースにしてもらうということが大切だと感じています。

最近増加傾向にあるのは、受験学年になって指定校推薦などで面接試験があるので至急対策してくださいという相談です。これまでの質問事項などを把握していますから、徹底的に対策を行いますが、大学側も予備校や高校で訓練をしてきていることを知っています。ですから、最近は面接時に用意できないような内容を急に聞いて対応力を見ることも多いように感じます。従って、理想を言えば小学生くらいからスポーツをさせるなど、コミュニケーションができる環境を保護者は用意する必要があると思います。さらに、社会的問題なども普段から自分の頭で考えさせる工夫が大切です。

また、日常生活で、あまり保護者が介入しないことも重要です。何でもかんでも保護者の方がしてしまう、三者面談などでも本人ではなく、保護者がずっとしゃべっているような家庭は危険です。そのような家庭で育つ子どもは、大人の顔色を伺い、自分の意見を持てないことが多いようです。親心として何から何までやってあげたいという気持ちはわかりますが、本人の自主性が育ちませんので、我慢が必要だと思います。

確かに医学部合格のためには学力が高くなければ難しいわけです。しかし、勉強ができることで医学部を選択するということが本当にプラスになるのかということは真剣に考えるべきだと思います。

医師への適性ということを考えれば、インフォームドコンセント、チーム医療が重視されている現代医療を取り巻く環境において、コミュニケーション能力の高さは大切な条件になります。パソコンの画面を見つめるだけで、患者さんを見ないお医者さんだったらどうでしょうか。そんなお医者さんには診療してほしくないのではないでしょうか。一方で、よく話をするが患者さんの意見は聞かないで、強圧的に平気で患者さんを傷つけるような発言をするお医者さんはどうでしょうか。やっぱり、診療してほしいとは思わないはずです。他者へきちんと配慮をして会話を成立させる能力は大変重要です。

ですから、周囲が躍起になって内向的過ぎる子供を医学部へ何が何でも入学をさせようとすることは、本人にとって、マイナスになる危険性があるということを認識していくべきだと思います。

他者を思いやることができない「自己中心的なタイプ」

今回は、国公立・私立の面接試験対策にも通じるお話をしていこうと思います。この記事を読んで、どちらかというと当てはまるなと感じる受験生は、自分の態度を修正することになるでしょうし、これから受験を迎える準備段階の学年に在籍する場合は、是非、注意してほしいと思います。

それでは、自己中心的に考えることが如何に医師への適性に欠けているのかということをお話ししていこうと思います。

日本の状況を鑑みれば、ほとんどの家庭で子どもの数が一人、あるいは二人というケースだと思います。さらに、晩婚化が進んでいることも少子化に拍車をかけています。一概には言えませんが、親が子どもに対して甘いケースも多く、物心両面で与え過ぎる傾向が強いと思います。従って、我慢ができない、他人への配慮ができないという子どもが多く、昭和の日本人の精神とは程遠い感覚であると言えます。

特に親が医師である場合、一般的に結婚が遅いと思います。必然的に遅く生まれた子どもは大変、可愛い。過剰なくらいに愛情を注ぐケースも珍しくありません。その結果、子どもが自己中心的な物事のとらえ方をする医学部受験生になっているケースもそう珍しくないのです。

医師にとって患者さんへの思いやりや献身的な気持ちはとても大切です。他人への配慮が乏しい自己中心的なタイプは、こういった素養が不足していることになります。またこのタイプは効率性を求めて自己に有利な環境を好みますから、周囲にとっては迷惑なタイプです。さらに困ったことに保護者も自分の子どものことを冷静に分析しておらず、修正を促すどころかプロテクトしてしまうこともありますので、手が付けられません。結局、入学後に痛い目にあってから気づくことになるのでしょうが、結果的に留年、退学してしまうこともありえると思います。

さて、ここからが本題ですが、本来身についている性格は、そう簡単には変えられないということです。従って、自分がわがままだなと感じているならば、面接試験では細心の注意が必要です。私も長年指導してきて、面接試験でそんなことを言ってしまったのかと驚愕することがあります。

例えば浪人生活が長い場合、教授の先生方からすれば、どうしてそんなにも長く浪人生活をしているのかを素直に知りたいわけです。もしかしたら、面接試験を受けている目の前の受験生は、何らかの問題を抱えているタイプなのかもしれません。質問事項は当然のことですし、普通に応えればよいところです。しかし、自己中心的だなと思うタイプの学生は、長年の浪人生活を馬鹿にされた、あるいは自分への攻撃と受け止めるのですね。質問している先生方に対して、浪人が長くて何が悪いんだと反撃し、自分は努力してきたんだと反論するわけです。謙虚に受け止めることができずに、口答えしてしまうのです。当然、面接の評価は低くなり合格はもらえません。

非常にもったいないのですが、学力があっても自分勝手なタイプは面接試験で態度などに出てしまいます。協調性のない自己中心的なタイプを合格させて、面倒を見ることになるのは先生方です。先生方がこの受験生の面倒を見たい、将来医師になってほしいと思えなければ、面接試験のある国公立・私立の医学部入試では厳しいと思います。

ですから、周囲への発言、行動に日常から気をつけておくことは大変重要です。自分の機嫌が悪いから挨拶をしない、気に入らないことはしない、礼節を守れないということでは、将来患者さんに嫌な思いをさせる医師にしかなれません。患者さんのQOLを重視する、チーム医療を実践するといった現代医療に身を投じるわけですから、しっかりと意識しなくてはなりません。

保護者の方は子どもを大切にし過ぎるということからは離れて、きちんとした情操教育、道徳教育を家庭の中で行ってほしいと思います。正直、それは予備校や学校に求めるものではないと思います。家庭教育は大変重要です。加えて他人に自分の子どもが叱られたり、注意されたりしたら、客観的に悪い部分があるのですから、修正を家庭で行うような意識を持つべきだと考えています。「うちの子のどこが悪いんですか。」「うちの子はやってません。」という反撃をしてくる保護者の方も見受けられますが、“モンスター”というよりは、一家そろって非常識以外の何ものでもありません。医師である前に常識人であるべきということは言うまでもありません。

「至誠にして動かざる者は いまだこれあらざるなり。」とは孟子の言葉ですが、医師になるのであれば、親にも子どもにも、常に心にとどめておいていただきたい言葉であると思います。